転調

[はじめに]

 転調 modulation[英] Modeulation[独]とは基調(先行調)から他調(後続調)に変わることを言います。(移調とは楽曲全体の調を変えることであり、しばしば混同されることがあります。)一般的に転調は基調と他調では同じ和音でも役割が違うのでその点に着目しておこないます。転調には他調の和音を臨時借用するだけの一時的な転調(部分転調)と、完全に他調に転じるような転調(本格転調)もあります。 新たな調の定着を図るためには、後続調では完全な終止形を伴わなければなりません。そうでない場合は一時的な転調か、転調に至るまでの経過的な調だと言わざるを得ません。

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終止形

 全終止 = V → I(強進行による終止、正格終止ともいう)

 半終止 = V(属和音による不完全終止)

 偽終止 = V → VI(偽りの強進行による終止)

 変終止 = IV → I(変進行による終止、変格終止・プラーガル終止ともいう)

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[転調の分類]

1.ドミナントモーションによる転調

 V7−Iのコード進行をDominant Motion(ドミナントモーション)といい、強進行の連続型です。ドミナント・モーションを反復進行させると5度下の調に転調させながら進行していきます。ドミナント7(V7)は不安定なコードなので安定しているトニック(I)で解決します。下の譜例ではC7はFのドミナント7として、 F7はBbのドミナント7と解釈しながら進行します。譜例のように五度圏を巡回するような同型反復進行です。

2.セカンダリードミナント7thによる転調

 セカンダリードミナントはドッペル・ドミナント(五度上の五度)とも呼ばれ、II7−V7−Iのような進行でドミナントモーションの一端でもあります。上の譜例で最後の3小節がCに対するセカンダリードミナント(DやD7)にあたります。


3.偽終止からの転調

 楽曲は主和音(Tonic)で終止することで安定感や終止感を得ますが、長音階では6度で終止する形を偽終止(Deceptive Cadence)といいます。下の譜例では2-3小節目が偽終止を決め、そのまま II-V7-I の正格終止でGへ転調しています。

C - G - Am7- D7 - G
C - G - Am7- D7 - Gm

C - G - D7- Em7 - Am
C - Em7 - Am - Dm - E7 - F#m7 - A7 - D

緑コードが偽終止和音です。


4.ピボットコード転調

 ピボットコードとは、共通するダイアトニックコードやセカンダリードミナントなど、転調の前と後の両方の調で関連のある和音のことで、この和音を軸にしてスムーズに新しい調へ転じます。

C - Dm - Gm7 - C7 - F
C - Am - Dm7 - Gm7 - C7 - F
C - Dm - Gm7 - Cm7 - F7 - Bb
C - Em - A7 - D
C - G
C - Em - Am7 - D7 - G
C - Am - D7 - G
C - F7 - Bb7 - Em7(b5) - A7 - Dm
C - G7 - Cm
C - Em - A7 - D7 - G7 - C#m7(b5) - F#7 - Bm
C - G - F#m7(b5) - B7 - Em
C - Am - D7 - G7 - C7 - F#m7(b5) - B7 - Em

Am - Dm7 - Gm7 - C7 - F
Am - Dm7 - Gm7 - Cm7 - F7 - Bb
Am - E7 - A
Am - Em7 - A7 - D
Am - Em7 - Am7 - D7 - G
Am - D7 - G
Am - C7 - G
Am - Dm
Am - F - Bb - Em7(b5) - A7 - Dm
Am - G7 - Cm
Am - E7 - A7 - D7 - G#m7(b5) - C#7 - F#m
Am - Em7 - A7 - D7 - G7 - C#m7(b5) - F#7 - Bm
Am - F#m7(b5) - B7 - Em
Am - D7 - G7 - C7 - F#m7(b5) - B7 - Em

赤コードがピボットコードですが、前後ともに関連が深いので他の解釈も可能です。


 

5.エンハーモニック転調(ピボットコード転調)

 エンハーモニックとは異名同音的といった意味で、近親調に転調するときは異名同音のピボットコードを利用して自然な転調が可能です。減七の和音は調性が不明確な和音です。それを利用して突然に減七の和音を用いて他調に転調することができます。短調でも長調でも直接に解決できるから転調する時に非常に便利な和音で、その際の対斜も許されます。したがって減七の和音を使ったエンハーモニック転調は調性が離れた調へ転調する際に大いに活用できるのです。

1. Am-Bm7b5-E-E7-Am-Am7-Dm-Dm7-Eb-G-G7-C

 


 短3度の間隔で配置されたディミニッシュコードは同じ構成音を持つのでディミニッシュコードをピボットコードにして転調することができます。「I-#Idim7-IIm7-V7-I」でIIm7を後続調のIIm7に読み替えると下のように転調できます。

 

2. C-C#dim7(Edim7)-Fm7-Bb7-Eb


3. C-C#dim7(Gdim7)-F#m7-B7-E


4. C-Ebdim7(Adim7)-Bbm7-Eb7-Ab


5. C-Ebdim7(Cdim7)-Bm7-E7-A

C - Edim7 - Fm7 - Bb7 - Eb
C - Gdim7 - Abm7 - Db7 - Gb
C - Bbdim7 - Bm7 - E7 - A

C - Dbdim7 - Cm7 - F7 - Bb
C - Edim7 - Ebm7 - Ab7 - Db
C - Gdim7 - F#m7 - B7 - E
C - Bbdim7 - Am7 - D7 - G

C - Fdim7 - Em7 - A7 - D
C - F#dim7 - Gm7 - C7 - F
C - Adim7 - Bbm7 - Eb7 - Ab
C - Cdim7 - C#m7 - F#7 - B

C - Gbdim7 - Fm7 - Bb7 - Eb
C - Adim7 - Abm7 - Db7 - Gb
C - Cdim7 - Bm7 - E7 - A

緑コードはセカンダリードミナントを含む終止形、赤コードがエンハーモニック的に読み替える減七の和音です。


 

6.保続音による転調

 保続音とは、和音が進行していく中で、保持され続ける音のことで、保持される音が最低音部にある場合、最高音部にある場合、内声部にある場合など様々です。保続音には主音か属音が用いられることが多く、その開始部と終止部では保続音を含めた和音が用いられます。保続音は音を長く伸ばし続けるほか、フィギュア的な扱いで短い音符のリズムを刻んだり細かいトリルの場合もあります。伝統的和声法ではオルゲンプンクト(オルガンポイント)とかペダル音などと呼ばれることもあり、曲の終結部で属音が長く保持されることをドミナントペダルといいます。


7.変化和音による転調

 ダイアトニックコード(通常の三和音や七の和音)内の音を臨時記号によって半音変化させることで、その調に属さない和音になります。そのような和音を変化和音といいます。変化和音にはドリアのIV(dr.IV)、フランスのII(fr.II)、ナポリのII(np.II)などがあります。変化和音にはどの調にも属さないもあれば、他調の和音と異名同音の変化和音もあります。 異名同音の変化和音は一時的な転調や他調和音の借用として転調に使われる事があります。

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