西洋音楽の歴史36

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後期ロマン派の音楽
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■■ブラームスの音楽

 ブラームス(l833一l897)の創作活動は,l9世紀の後半が主体であった。ブラームスがシューマンのもとを訪れたのはl853年で,そのとき彼はまだ20歳という若さであった。しかもその翌年の2月にはシユーマンはライン川に投身自殺を図っているから,ブラームスがシューマンの指導を受けたのはごくわずかの期間にすぎない。しかし彼は生涯シューマンに私淑するという形で彼からの影響を受けた。シューマン未亡人のクララに愛情を抱いていたためとも伝えられるが,生涯を独身で通し,やや無骨な感じのブラームスが,リストやワーグナーたちのロマン主義を嫌ったというのも当然のように思える。その彼がバッハとベートーヴェンを尊敬し,古典主義的な形式感を最後まで捨てなかったのも,あるいはそうした人間性に由来しているのかもしれない。

 ブラームスの作品に見られる大きな特色は,がっちりとした構築性の中に落ち着いたロマン主義を注入していることである。標題音楽やオペラには一切手を染めることなく,ピアノ曲や管弦楽曲,室内楽曲などの器楽作品と,ドイツリートの世界で,貴重な遺産とも言える多くの歌曲を残した。その生涯を通して,あくまでも古典主義的な形式的客観性の世界にとどまったことは,考えようによれば,燗熟したロマンティシズムに対する明らかな挑戦でもあった。事実,この後に統くドイツ音楽の世界は,ワーグナーの流れに属する作曲家とブラームス的な作風を保持する作曲家との,二つのグループにはっきりと分かれていくようになるのである。こうした事情から,ブラームスを新古典的な作曲家と言うこともあるが,20世紀のストラヴィンスキーらの活動を指していう新古典主義と紛らわしいので,ブラームスを指しては擬古典主義と言うことが多い。

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