西洋音楽の歴史34

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後期ロマン派の音楽
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■■19世紀後半のオペラ

ワーグナーの楽劇

 ワーグナー(l8l3一l883)が,その作品にはっきり楽劇と名付けたのは,l865年に発表した「トリスタンとイゾルデ」からである。それ以前の作品はオペラとなっていて,形式的にも伝統的な形をくずしてはいない。ワーグナーは楽劇によって,従来のオペラが音楽と劇のいずれかが主導権を持っていたのに対し,両者が完全に一体となった真の総合芸術を目ざした。その根拠には,すべての芸術は表面的には個別的であるが,根源的には同一であるという思想があった。旋律はもともと言葉から派生したものであり,詩と音楽は別個のものではなく,本来は同一であったものが分かれたのだというのである。ワーグナーが自ら台本を書き,演出から指揮までも一貫して自分で行い,しかもそのための劇場まで作って上演したというのも,すべてそうした思想から出発していることであった。

 しかし,音楽史上にワーグナーが残した功績は,単に楽劇を創始したということにとどまるだけではない。むしろ,その過程を通していくつかの技法上の試みを行い,それが後代に大きな影響を与える改革であった点に注視しなければならないだろう。彼はライト・モティーフの使用と無限旋律といわれる途切れることのない旋律作法によって,楽劇としての劇的進行の円滑を図った。また従来のオペラがレチタティーヴォ(もしくはせりふ)とアリアの積み重ねによって構成されているのに対し,全体を通作し音楽の途切れをなくした。こうした技法は晩年のヴェルディにも影響を与えている。彼はまた,半音階手法と不協和音の多用によって調性をあいまいにし,近代音楽の無調性の先駆ともなった。

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