西洋音楽の歴史1

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古代からルネサンス音楽
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■■古代の音楽への認識

 我々が,音楽をいわゆる芸術音楽という形で認識するようになったのは,少なくとも,グレゴリオ聖歌の時代以後になってからである。音楽があって,それが楽譜に表され,その楽譜を見て音楽が再現されるという形式が確立されるようにならなければ,我々は音楽の存在を確認することができないからである。そういう意味では,即興演奏を主体とするジャズ音楽にも多分に原始性が認められるが,それはバロック時代の即興演奏と同じく,楽譜に表し得る可能性をあえて具体化しないだけのことで,実際には上記の前提をなんら否定するものではない。古代の音楽を音楽としてとらえることが極めて困難であるのも,上記の三つの条件のうち,後の二つを欠いているからである。

 考古学ないしは人類学,あるいは比較音楽学によって,古代の音楽への手がかりを以前とは比較にならないほど豊富に持つようになった。しかし,そうした事実の累積や分析を総合的に研究してみたところで,そこから得られるものは単なる事実の確認にすぎないと言えるし,なんら具体的に音楽は聞こえてこないのである。その種の学問的成果に,我々は音楽そのものの再現を期待することは間違いであり,そこに見るべきものは,単なる歴史的軌跡のわだちにすぎないことをまず認識してかかる必要があると言えるだろう。

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