[はじめに]
人間が認識する「音の高さ」は周波数によって決まります。音には、基本となる周波数(基音)の他に、その2倍、3倍.....と整数倍の周波数の振動がいくつも含まれています (オームによって発見されました)。 この整数倍の音(振動)のことを倍音(harmonic overtone 英)いいます。 同じ高さの音でも、楽器や撥音素材によって音色が異なるのは倍音のバランスが異なるからです。ほとんどの楽器音は基音の成分が最も多く、倍音の成分は基音より少なく、倍音は基音から遠ざかるほど弱くなります。
倍音 音名 下位倍音との関係 備考 第16倍音
C
第15倍音の短2度上
第15倍音
B
第14倍音の増1度上
第14倍音
Bb
第13倍音の長2度上
第13倍音
Ab
第12倍音の短2度上
第12倍音
G
第11倍音の短2度上
第8倍音×3/2 (純正5度)
第11倍音
F#(注1
第10倍音の長2度上
第8倍音×8/11
第10倍音
E
第9倍音の長2度上
第8倍音×5/4 (純正3度)
第9倍音
D
第8倍音の長2度上
第8倍音×9/8 (=純正律・ピタゴラス音律)
第8倍音
C
第7倍音の長2度上
第7倍音
Bb(注2
第6倍音の短3度上
第4倍音×7/4
第6倍音
G
第5倍音の短3度上
第4倍音×2/3 (純正5度)
第5倍音
E
第4倍音の長3度上
第2倍音×5/4 (純正3度)
第4倍音
C
第3倍音の完全4度上
第3倍音
G
第2倍音の完全5度上
第2倍音×3/2 (純正5度)
第2倍音
C
基音の完全8度上
基音
C
注1) 純正律・ピタゴラス音律のFは4/3
注2) 純正律のBbは7/4、ピタゴラスのBbは16/9
[オクターブと周波数]
人間は音量や音色以外にも「高い音」「低い音」など音の高低も感じています。音の高低をあらわす単位は周波数Hz(ヘルツ)を用います。周波数は、波形が1秒間に何回繰り返されるかを基準するものです。1オクターブ高い音は、周波数が2倍になり、1オクターブ低い音は周波数が半分になる関係です。オクターブは互いの音の周波数が2倍(半分)の関係になっているので2つの音は最も良く調和します。
第4倍音
第3倍音
第2倍音
基音
[倍音と音色]
楽器音のオシログラフをみると音色と倍音の関係がよくわかります。複雑なオシログラフほど倍音が多い楽器です。純音とは倍音がまったくない音でエアリード系楽器(フルートなど)は純音に近い音がします。一方、バイオリンやオーボエは倍音が多く含まれますので、特徴的な音色が出ます。
大太鼓や小太鼓、ティンパニなどのヘッドを有する打楽器は、中心から発生する第2倍音を消されてしまうために中心を叩くと豊かな響きが得られません。ティンパニはヘッドの半径1/3の部分が最も良い響きが得られるとされています。
また、ピアノの弦をハンマーが叩く打弦点は、不協和音程である第7倍音(基音をドに対して第7倍音は♭シ)を弱めるために弦の長さの7分の1前後に設定してあります。ピアノの低音部や中音部ではしっかりと安定した音を得るために第7倍音以上をあまり出さない調整をしますが、高音部では華やかな音色を得るためにために第7倍音以上を強調する配慮がなされています。
[ハーモニクス奏法]
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス・ハープなどの弦楽器で用いられるハーモニクス奏法は、倍音の性質をうまく利用したものです。弦楽器は下図1のように弦の上の一点(↓で表示)を指板に強く押さえ、音程を調節しながら演奏します。一方、下図2のように同じ位置に軽く指で触れて振動の調節をすると倍音を鳴らすことができます。このように、同じ位置に指を置いても押さえるのと触れるのとでは出る音が違ってくるのです。ハーモニクス奏法を用いた音は、通常の奏法よりも音量が弱くなりますが柔らかな音色になります。 和楽器の箏(琴)にも「笛音(ふえね)」というハーモニクス奏法があります。
1.通常の奏法 G線1/4の位置で基音C |
|
2.ハーモニクス奏法 G線1/4の位置で第4倍音G |