生きた音楽表現へのアプローチ

保科 洋先生 著

エネルギー思考に基づく演奏解釈法

今各地の音楽家の中で静かな反響を呼んでいる専門書
生きた音楽表現へのアプローチ」について紹介します。
是非ご一読ください。音楽に携わる者、演奏家にとって
確かなアプローチから多くのメッセージを与えてくれることでしょう。

都合により、本書に付属させられなかった音源(MIDI)を
近日中にご用意できることになりました。(このHPからダウンロード可能)
きっと参考になることでしょう。ご期待ください。
書籍のお求めは全国の有名書店・楽譜店にて。

前書きより

はじめに

名演奏を聴くといつも感じるのは理屈抜きに演奏者の「感性」の素晴らしさに圧倒されることです。名曲といえども演奏によってその印象は天と地ほどの差が生じるのは日常的に体験するところでしょう。名曲が名演奏と出会ったとき、音楽はことばで表わせない感勤を私たちに与えてくれます。そして何よりも、私たちがこれら名演奏をおおむね名演奏として素直に受け入れている事実、つまり名演奏の音楽的内容を直感的に価値評価する「音に対する感性」のするどさや柔軟さに、いつも驚かされます。

 ところでなぜ、音楽的素養や知織あるいは経験が異なる聴き手なのにもかかわらず、これら名演奏に同じように感動し、さらには似通った価値評価ができるのでしょうか?それは演奏者のみならず聴き手も含めた「感性」といわれるものの深奥には、少なくとも、音楽(作品演奏)の素直な表現と不自然な表現とを選別し得る人間共通の普遍的感覚ともいえるものが潜んでいるからではないのでしょうか?

 もしもそうであるならば、人間が音にどのように反応し、どのように音楽を認知するのか、というからくりを解き明かすことが、摩可不恐議な音楽表現の真髄を探る鍵になるかもしれません。さらに、「感性」という分析不可能とも思える分野の解明(少なくともその適用範囲の共通埋解)にも役立つかもしれません。

本書は、このような見方によっては「音楽」の本質にかかわる大問題に無謀にも挑戦を試みようとするものです。むろん、歴代の先達が未だ必ずしも解明し得ていないこの音楽美学上の難題を一研究者が解明できるなどとぱ毛頭考えてはおりません。しかし、たまたま作曲を専門として創作という課程を体験し指揮を通して(特に専門的教育を受けていないアマチュアを対象にして)音楽表現の方法について苦労してきたさまざまな経験、そして教師という立場から、より音楽的な表現を夢見ながらも、それは一部の限られた人たち、才能のある感性の持ち主にのみ与えられた特権である、と羨望しつつ諦めてしまう学生を数多く見るにつけ、そのような彼らにも、それぞれの技術に応じて「少なくとも不自然ではない音楽表現はできないものか」と模索し統けてきた経緯を、創作・演奏表現の両面からまとめてみようと思いました。

 私が指導してきた対象は、専門家をめざす音楽大学の学生から、大学に人ってはじめて楽器を持った人が大半を占めるアマチュア・オーケストラまで千差万別です。なかでも特に苦労したのは、音楽経験のほとんどない学生たちに音楽的内容の表現方法を説明することでした。音楽の経験年数が比較的長い音楽大学の学生などには、感党的な説明でもある程度は理解してもらえますが、音楽の慣用句的表現法に不慣れな初心者たちにはそれでは通用しません。特にオーケストラのように人人数の相手に共通理解してもらう必要がある場合、ことばによる説明では限界があることをイヤというほど痛感させらました。さまざまな試行錯誤の結果、あることに気がつきました。それは、楽譜上の音符の配列を、物体が空間を移行していく状態、すなわち、力学的なエネルギーの推移状態にたとえて説明すると、と信じられないほどスムーズに理解してもらえる場合が多いということです。

考えてみればこれは、当然のことで、音とはエネルギー現象の一形態なのですから、音によっ構築される音楽がエネルギー現象と無向係であることはとうてい考えられません。

音楽の表情を力学的なエネルギーの振る舞いとして類推する。............後略

目次

第一章 楽曲分析と演奏解釈.......................................................................13

第二章 楽譜・音符・エネルギー...................................................................29

第三章 音符のグループ構成機能...............................................................49

第四章 楽曲分析の実際............................................................................159

第五章 実作例の分析................................................................................237

全320ページ

発行 音楽之友社
3800円 

 

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