指揮法講座
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●ここでは図解を省略していますが、実技演習では実際に図示しながらレッスンを進めています。
アマチュア指揮者のための指揮法実技演習開催中! New! 2006.6.27補
聴取側としての冷静な演奏評価項目(参考) New!
[指揮法の意義]■指揮の活動を取り上げるに当たっては,大きく分けて二つの意義が認められます。一つは,指揮を一種の身体表現としてとらえ,音楽に内在するビート感や感情などを,身体表現を通 してより明確に奏者に意識させること,そしてもう一つは,より進んだ段階として,表現したい内容を奏者に伝達する手段として,つまり本来的意味における指揮として行うことです。
■合奏においては,まず最初の段階で,身体表現としての指揮の活動を通して拍の流れを明確に奏者に意識させること重点として,トランポリンの図などを活用して,拍の叩きを活動の中心として練習しましょう。より高度なの段階に入ると,身体表現として見た場合は,拍子感を感じ取ること及び曲想表現へと一段踏み込み,さらに指揮の本来の目的である,表現内容の伝達へと発展させたいものです。
■一般的に指揮とは、合奏体に対して統一した解釈(独自の解釈も含む)を共有させ、演奏表現に仕上げる作業を指します。指揮の機能は、次の2点に集約できます。
1.音楽的解釈を統一させ、表現したい音楽を創出する指揮者としての機能2.奏者の力を十分に引き出し、伸ばしながら合奏体をまとめ上げる指導者としての機能
そのために指揮者には音楽的な幅広い知識と楽曲に対する深い洞察力が求められ、それらの解釈を奏者に伝えるためのバトン・テクニックが必要になります。楽曲を音楽として具現化させるために指揮の技術は大きな影響力を持ちます。バトン・テクニックを習得せず、見様見真似の個性だけでは限界を感じることでしょう。指揮者は音楽を主張するための方法を学ぶことが必要なのです。
指揮法の学習はバトン・テクニックの習得とともに、指揮を通して音楽表現へのアプローチを試みることが目的です。楽曲を指揮しながら叩き、図形、楽曲の開始・停止・終止、など基本的動作を習得し、発想の表現、テンポやダイナミクスの変化、フレージング表現などの研究と実践が必要です。ひいてはスコアリーディング、楽曲分析(アナリーゼ)、音楽理論、ソルフェージュなど「指揮実技」と「専門理論」を学ばなければならないのです。 加えてリハーサル・テクニック(このページの最後に箇条書き記述しています)も重要な実践力となります。
[基礎的な指揮の技法]
■したがって,発展的な段階における指揮の練習にあたっては,指揮の基本的な技法を念頭に置いて行うことが望ましいでしょう。そこでその基礎的事項について整理してみたいと思います。
■棒は人差指の第一関節に添えて、上から親指で軽く押さえて持ちます。 他の指を軽く添え(握りすぎない)不安定さを解消させます。
■指揮の技法の基礎として最も重視しなければいけないことは,いかにして拍を明確に示すかということです。この「拍を明確に示す」ということは,二つの要素に分けることができます。ひとつは主に手首による拍の叩きそのものを明確にすること,もう一つは次の拍までの時間を予測させることです。
■構えは腕を90度に曲げて肘は軽く開き(メロン1個をはさむぐらい)ます。 棒は体の中心に来るように内側に入れることが大切です。 重心を爪先にかけたりせず背筋を伸ばすよう心掛けます。 腕と棒は直結して一体となることは望ましいのです。 この姿勢をチェックするため、ガラスや鏡で自分の姿を映しながら確認します。 正面だけではなく側面も映し、棒の持ち方や肘の角度をチェックます。
■結論的にいうと,次の拍までの時間が予測できるようにするには,等加速度運動(何度動いても同じように速くなって遅くなる)を行うとよいのです。なぜなら,それが物体の自然な運動であるからです。例えば,投げ上げたボールがいつ落ちてくるか予測できるのは,ボールが等加速度運動を行い,同時に私達がその運動の法則性を経験的・感覚的に知っているからです。いつも速度が一定な等速度運動(ずっと同じ速さで動く)では,かえって予測がしにくいものです。例えば野球で初速と終速の差があまりない,いわゆる伸びのある投球を打つのがより難しいことでも理解できます。指揮の基本は叩きと加速減速だと言えるでしょう。
■そこで,指揮において等加速度運動を行うための基本練習方法を紹介してみましょう。
最初に,腕をいっぱいに伸ばしながら,自分の回りに大きな円を描いてみます。この時,ちょうどジェットコースターが一度逆さまになってから加速を付けて落ちてくるような感じで,いちばん上の部分で極度にゆっくり,そしていちばん下の部分でもっとも速くなるようにします(それらの点はは共に体のほぼ中心の位置になるはずです)。この時,ひじが曲がらないように気を付けましょう。なぜなら,ひじを曲げると,運動の支点が複数になってしまい,スムーズな運動が難しくなるからです。飽くまでジエットコースターのように図形の上の部分はゆっくり,図形の下の打点の部分は速く振りましょう。
■この運動がスムーズに,肩に力が入らずにできるようになったら,その運動を次第に縦に細長くし,最終的には一直線上の往復運動にします。ここでは,いろいろなテンポを想定して行うとなお良いでしょう。遅いテンポの場合は,全体を遅くするのではなく,素早く振り上げ,頂点に近い部分での「遊び」(間)をたっぷりと取るようにします。
■このような方法で,等加速度運動による腕の上下運動ができたら,さらに手首の叩きと跳ね上げの運動を加えて,より打点を明確にしたいものです。これは,「ドリブル」をするような感覚で行うとよいでしょう。そして,その手首の運動によって,もっとも速度の速くなる打点の部分にさらにエネルギーを与えるわけです。
[拍子と図形]
■さて,以上のような自然な運動ができれば,それほど高度な技術も使わないでも,自然なビートを感じさせ,アンサンブルをも整えることができます。そのうえで,さらに拍子感を感じさせ,より音楽的な表現を実現させるには,曲の持つ拍子感・テンポ感に合った図形を描きながら指揮することが要求されてきます。
■指揮の図形には,さまざまなものが見られますが,そこに共通してみられるポイントは以下のように整理できるでしょう。
l.拍の位置が明確であること。(横に広く図形を取ることも重要です)
2.1拍目が明確であること。(強調する必要があります)
これらが実現できれば,拍の流れに乗り,拍子感をもった演奏ができます。ただし,基礎的な技法としてはなるベく直線的な図形を描き,応用として,曲想に応じた曲線的な図形を用いるのが望ましでしょう。
[間接運動]指揮の運動で中心となる「間接運動」とは手首や指先を使わず、腕で間接的に棒に運動を与えて指揮するので 「間接運動」と呼ばれます。間接運動には「叩き」「平均運動」「しゃくい」といった基本的な指揮の運動が含まれます。 これらの運動を使い分けることが分かりやすい指揮を振る重要なポイントです。 実践では複数種類の運動を組み合わせ、1.2拍目は叩き、3.4拍目は平均運動、といった使い分けも必要となります。
■叩き
物が自然落下して平面にあたり、反発して元の高さにに戻る動きを表現する等加速度運動です。 音を出すタイミングを指示するには一番分かりやすい方法ですから練習合奏などで楽曲を通すだけなら「叩き」だけで十分です。
■平均運動
叩きの正反対の運動で、点をはっきりと示さない等速度運動です。 加速減速の無い振り子のような運動と理解しても差し支えありません。
■しゃくい
加速減速を伴って弧を描く運動で、杓う(水をひしゃくで汲む)ような曲線的運動。平均運動と叩きの中間的な曲線的な運動でもあります。
[直接運動]
上記の間接運動を補いながら、特別な表現のために用いるのが直接運動です。 「瞬間運動」「撥ね上げ」「先入法」「引っ掛け」などの運動があります。分割の技法も直接運動を必要とします。
■瞬間運動
点と点を直線で瞬間的に結ぶ運動です。叩いたり撥ね上げたりしないので、数取り(手首や指揮棒だけで拍のみを指示)の際にも用いられます。奏者にテンポの抑制を指示する時にも有効です。
■撥ね上げ
点前運動なしに打点から瞬時に最も加速された動きから開始します。撥ね上げてから元の打点に戻るまでは減速を重ね、ゆっくり降ろします。軽妙な印象を与えます。
[先入法]
「いち・ト、にぃ・ト、」 というように裏拍を指示する技法です。拍を分割した「ト」の時点で次拍の開始位置をわずかに過ぎた位置で棒を留めます。という意味で 「拍より先に入る」のでこのように名付けられました。先入法は次の4つの段階と3つのオプションに分けることが出来ます。
■A先入
しゃくいと同じ図形の後、次拍の始点を僅か下に降りた点でで止ります。ただし加速なしに減速のみです。撥ね上げに似た運動の裏拍「ト」で停止する先入法です。
■B先入
A先入と同じ運動ですが、停止時のスナッピングを肘で行います。よりリズム感が強まります。
■C先入
A先入と同じく加速なしに減速のみですが、B先入よりも大きく腕を用いた動作になります。点後の最上部は肩の位置、「ト」は胸の位置を目安にします。
■D先入
最も大きな停止に向かう運動を伴います。腹部中央から撥ね上げて腹部の高さまで戻して「ト」を位置させます。大きなモーションで強い指示を与えることが出来ます。
■分割先入
叩きの後、最上部で一瞬の「ト」を意識する先入法です。軽いスナッピングを用い、次拍の始点で止ります。
■半先入
停止する時点が裏拍の「ト」ではなくその半分の「ヲ」である先入法です。四分音符が一拍の場合は4つめの十六分音符が次拍に先入する先入法です。それぞれの拍が伸びる傾向にある場合に用います。
■三分の一先入
3連符型の楽曲で3連符の一番最後の音符で次拍に先入する先入法です。
■引っ掛け
点前は手首のみの叩き、点後は撥ね上げといった技法で裏拍などをはっきり指示したい時に用います。
■ワルツ打法
「ワルツ打法」は「ひとつ振り」とも呼ばれ時計回りの円運動の図形を描きます。もちろん打点は一番底部に位置させます。撥ね上げの上下運動を円運動に替えた技法です。 急激な加速が必要な場合は、加速時に手の甲を円の内側に向けてスナップしひねり、1拍目の叩きの後ひねりを元に戻します。この躍動性を強調させる技法を「捻り(ひねり)叩き」といいます。
[終止法]
楽曲を終止させる技法で「置き止め」「叩き止め」「反発叩き止め」があります。
■置き止め
打点に戻ってそのまま終わる技法です。終わりの点にむかって加速せずにそのまま、または減速して終止します。平均運動の場合に用います。
■叩き止め
これは叩いた打点で終わる技法です。反発せずにスパッと止めます。 最も加速して速度が最大の時点で基本姿勢の終止になります。
■反発叩き止め
叩き止めの硬さを和らげ叩いた後の余韻を表現します。終止する位置は叩いた打点のやや上になります。 打点後はフワッと減速します。打点と終止位置の距離で余韻やy藁笠を調節することが出来ます。
■フェルマータ
終止法によって最後の点を出し終わった後、音がフェルマーターで伸びることがあります。 その際は棒を完全に止まらないように心掛けながら小さな図形で円を描いて終止させます。左手を用いる場合は保続音の音量の変化や表情に関する指示と終止を、より明確に表現する事も出来ます。もちろん棒だけでも表現できなければなりません。
2006.7.3補
[具体的な例]■ここで,実際に指揮する場合の実践例について触れておきましょう。
◎4/4の楽曲について
基本的な四拍子の図形でよいのですが,軽快な部分で楽曲の推進力的な感覚をもたせるためには,4拍目の振り上げはあまりとらずに,各拍に均等な強さを与えるような意識で振るとよいでしょう。ただし,あまりアフタービートを強調すると,単調になると同時にリズムに癖が生じるので気を付けなければなりません。各拍の振り上げの高さにあまり差を付けないことも重要です。
◎曲想に変化がある場合
横の流れを重視した部分ではは曲線的なレガートの図形でよいのですが,アウフタクトや8分休符♪で始まる部分が多い軽快な場所では,8分休符の部分で軽く,素早く振り上げを行って,次の8分音符をスムーズに引き出す必要があります。
4拍めを高く跳ね上げるような感じで後半は,ビートを生かして直線的に振るとよいでしょう。曲想が変化したことを奏者にも意識させ,積極的な音楽表現を促しましょう。
楽曲の最後の部分がスビト リタルダンドの場合は,そのl拍前をはっきり打った後,大きく振り上げ,タイミングをそろえるとうまくいくでしょう。
◎6/8の楽曲について
八分の六拍子の場合,テンポの遅い曲を除いて通常は二拍子的な振り方をします。ただし,l拍の中に三つの音が感じられるように,振り上げた位置での「遊び」をたっぷりとり,やや曲線的に振るのが望ましいと思います。
跳ね上げた部分は特にゆっくり,降り下ろした打点は特に速く図形を描きましょう。
◎図形一覧
私が実践している等加速度運動の図形を紹介します。 New! 2003.10.3補
◎指揮法の補足
上記指揮法を踏まえた「アマチュア楽団における実践的指揮法の補足」を公開しました。
実践的指揮法の補足 New! 2003.10.4補
[左手と体の覚書10項目]
1.左手を使う時は鏡像(右手と反対)の図形を描いて音量を強く要求する時。
2.パート毎に出るタイミングを指示する時。
3.音量の変化を上下で指示する時。(上下の他に握りこぶしや手の甲で増加、手の平で減少)
4.アインザッツ(声部毎のタイミング合わせ)の指示。
5.部分的な声部を取り出す時の指示、その逆も指示できる。
6.レガートやアクセントなどの表情を指示。
7.特別に左側のパート(右手では右側のパート)へ指示。
8.左手を使わない時には鳩尾(みぞおち)にそっと置いておきましょう。
9.両手を使っての動作。(握る、叩く、抱える、押さえる、広げる、切るなど)
10.体全体で音楽表現を指示。(肩をすくめる、胸を張る、一歩前へ踏み込む、後退りなど)
2004.1.11補
[リハーサル・テクニック指揮者心得]
■最後に,私がスクールバンドの指揮をするにあたって心掛けていることをまとめておきます。バトン ・テクニック にのみ頼り、リハーサル・テクニック無しに練習を進めることで
1.演奏に集中できる環境整備に努めたい。(楽器・楽譜の不備を容認しない)
2.始めに今日の目標とする所をはっきりとさせてから練習に入りたい。
3.練習中はトレーナーとしての冷静な耳と、計画的な時間配分を心掛けたい。
聴取側としての冷静な演奏評価項目(参考)4.奏者の力を的確に把握し、評価を忘れずに個々に対して適切な要求を簡潔に与えたい。
5.「緊張と緩和」一度の練習を一つのドラマと考え、起伏に富んだ「笑いと涙」のある時間にしたい。
5.ことば数は豊富に日常的な例を上げながら、イメージづくりを援助したい。
6.指示は明快なトーンで容易に理解できるものでありたい。全体的にはポジティブに、時にはネガなトーンも効果 的な場合あり。
7.決して部分的なパート練習を聴講させる時間を作らず、仕方なくそのような状況に陥っても「ここを聞いていて欲しい」といったリスナーとしてのポイントを全体に明示したい。
8.楽曲の全体像を奏者がいち早く掴めるような順序だった練習をしたい。
9.練習終了時間は可能な限り守りたい。
10.本番は非日常の世界を演出できるよう、適度な緊張の中にも無二の音楽創造に集中できる雰囲気づくりを心掛けたい。
11.本番中は奏者を信頼し、管理的な棒にならず、自発的な音楽を引き出しながら聴衆をも楽しませる棒にしたい。
12.練習と本番の指揮で、利己的な気分による「大きく違った棒」を奏者に強要しない。
13.本番後の成果と課題を明らかにするところまでを指揮者の仕事として、安易に割愛しない。
以上、指揮法の基本的な事項だけをまとめました。ご意見やご感想をお待ちしています。
◎練習用指揮棒製作演習
練習用指揮棒の必要性を感じ、自作している棒の作り方について写真を交えて紹介します。
練習用指揮棒の作り方 New! 2003.10.6補
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