リコーダーの知識

l.リコーダーの歴史

リコーダーと呼べるか否かは別として,その起源は先史時代にさかのぽることができる。

その分布は,東西ヨーロッパ,中南米,エジブトと,かなり広範囲である。このことは,例えばペルーの山奥にあるドルドーニュの洞窟やナイル川沿岸地帯,その他の地域からの発掘による出土品(楽器そのものや壁画)で裏づけることができる。ただ楽器といっても,吹き鳴らしたと思われる笛の木片,穴のあいた石,骨,土笛などである。しかし,これらの笛は,V型の切り込みや吹き口への“つめせん”によって音を出す笛,つまり先端から縦に吹き込む形式の笛というように,あくまでも発音原埋がリコーダーと同じであるというだけである。

真の姿のリコーダーがいつの時代にできあがったのかを推測することは,残された資科からは困難である。現存している最古の楽器は,

16世紀初頭のものてある。また,リコーダーの存在を確実に示す最古の文献資科は,現存している楽器の年代とほぽ同じである。そのころのイギリスでは,すでに“リコーダー”ということばが,現在と完全に同じ意味をもつようになっていたが,イキリス以外ではまだ,リコーダーと横笛とをはっきり区別する名称がなかった。リコーダーに関する最も古い文献としては,フランスで11世紀,イギリスで12世紀に書かれたものがあげられる。中世において,リコーダーはミンストレルの楽器として親しまれ,声楽優先であった当時の音楽において,最も声楽と併用された楽器であった。15世紀末ごろから,四声体の合唱のそれぞれのパートを,リコーダーで重複させる傾向が始まった。16世紀に入ると,リコーダーはそれ以前から教会で使用されていたが,教会音楽において一定の地位を獲得した。

 

ルネサンス時代のリコーダー

一方,世俗音楽の分野でも,演劇,オペラなイタリアどの劇場音楽にも,リコーダーは進出してきた。シェイクスピアの「ハムレット」第3幕第2場は,その代表的な例といえる。リコーダーは清らかで荘重な音色のため,もっぱら超自然的な場面,例えば,死,奇跡,来世への歓喜といった場面や,キリスト教あるいは異教の神などを暗示する場面などに用いられていた。16世紀はルネサンス音楽の時代であるが,この時期には,大きさの異なる同族の楽器を系列的に作ることが流行し,リコーダーは完全なる一族をなしていた。そのことから,16世紀後半の作品は,リコーダー属だけのアンサンブルで、演奏する方が適していると考えられる。17世紀になるとリュリJean Baptiste Lully(1632一1687)が,リコーダーのための六声部の曲を書いている。しかし,なんといっても,リコーダー音楽の全盛期はl8世紀のバロック時代である。この時代は,数多くの芸術的格調の高いリコーダー音楽のオリジナル作品が,まさに百花繚乱という感じで咲き乱れたのである。以下,各国のバロック時代のリコーダー作品を書いた作曲家をあげる。

 

ペルキー

レイエ,Jean Baptiste Loeillet(1680一〜1730)は,ソロソナタ,トリオソナタ,五重奏などのすぐれた作品を残している。

ボノンチーニG.B.Bononcini(1670〜1747)

マルチェルロB.Marcello(1686〜1739)

サンマルティー二G.B.Sam martini(l695〜1750)

スカルラッティA.Scarlatti(1660一l725)

ヴェラチー二F.Veracini(1690一1768)

ヴィヴァルディA.Vivaldi(1678〜1741)

 

ドイツ

ドイツでは,テーレマン,バッハ,へンデルの三大作曲家をまずあげねばならない。

テーレマンGeorg Philipp Tellemann(1681一1767)彼自身リコーダー演奏の名手であったせいか,数多くの,きわめて水準の高い作品を残している。ソロソナタをはじめとして,トリオソナタを中心とした室内楽曲,協奏曲,カンタータのオブリガートなどである。特に,トリオソナタはテーレマンの最も完成されたリコーダー作品といわれている。

バッハ

Johann Sebastian Bach(1685〜l750)バッハの室内楽曲用のリコーダー作品はないが,大作としては「ブランデンブルク協奏曲第2番へ長調」,「第4番ト長調」の2曲がある。

この2曲は,現在リコーダー,または,フルートで演奏されているが,オリジナルはリコーダーである。

ほかにもカンタータのオブリガートがあるが,いずれもすぐれた音楽性をもち,かつ高度の技術と気高い品性を要求される作品である。

へンデル

Georg Frederich Haindel(1685〜1759)有名な作品として,作品1の4曲,ト短調,イ短調,ハ長調,へ長調があり,これは玄人,素人の別なく演奏されている。また,カンタータやオペラ,オラトリオなどの中にもリコーダ一のための美しい作品がたくさんある。

イギリス

パーセル

Henry Purcell(1659〜l695)イギリス最大の作曲家の一人,イギリス音楽の祖といわれている。彼の劇作品や声楽曲の中には,リコーダーのための作品が数多くある。その中でも,“Dioclesian”の中のシャコンヌは,基礎低音を持つ二声のカノンで書かれたすばらしい作品である。リコーダーのためのオリジナル作品としては“基礎低音を持った三声シャコンヌ”へ長調がある。

また,バロックではないが,大バッハの次男C.P.E.Bachは,バス・リコーダーを使った珍しいトリオソナタ,へ長調をつくっている。

19世紀の中ごろ以降,リコーダーは,横笛(Transverse fluteまたはGerman flute)にその地位をしだいに奪われ,19世紀には,

ほとんど顧みられなくなった。20世紀になると,A.ドルメッチによって近代的なリコーダーが制作されたことから,再び返り咲く。作曲家も,P.ヒンデミットが,トリオソナタをはじめとして数多くの作品を残しているし,他の現代作曲家による作品は,きわめて前衛的な傾向をみせている。20世紀のリコーダーにおける大きな特質として,教育楽器としての適用をあげることができる。

この風潮はドイッに起こり,そしてイギリスアメリカ,日本へと影響を及ばしたのである。理由として,歌唱教材を演奏する場合,演奏技術がほかの楽器に比べて容易であることや,ほかの教育楽器よりも音楽的に高度な表現ができるということがあげられる。また,材質によっては大量生産が可能であり.したがって廉価であるという,経済的な理由もある。

 

2.リコーダーの名称

わが国では,一般にリコーダーと英語で呼ばれているが,各国によって,それぞれいろいろな呼び名がある。その中で比較的親しまれている名称を,4種類だけ選んで列記してみると以下の通りである。

 

リコーダーrecorder(英)

ブロックフレーテBlockflete(独)

フラウトドルチェ flauto dolce(伊)

フリュート・ア・ベック flute a bec(仏)

 

この中の,リコーダーという名称の語源は,「tosinghke a bird〔鳥のようにさえずる〕」である。独,伊,仏での名称には発音こそ違うが〔フルート〕の名が含まれている。興味深いことには,この笛は,1.マウスピースの構造から,「Block〔栓〕を持った笛」2.特有の音色から,「dolce〔やさしい〕音を持った笛」3.マウスビースの形態から,「a bec〔くちばし〕を持った笛Jなどと,祝覚,聴党の面から名前がつけられていて,それぞれの国柄を表している。次に,この笛の名称上,特に大切な事柄として,なぜ「フルート」という名前がついているかということについてである。

これは1770年以前は,単にフルートといった場合は「縦のフルート」すなわちリコーダーを意味していた。それに対して現代の横吹きのフルートは,フラウト・トラヴェルソと呼ばれており,traverso(横)とただし書きをつけて区別されていた。そして1770年以後に,室内楽やオーケストラで用いられていたリコーダーは,長年にわたる栄光の座を現在の横のフルートにゆずった。それ以後,単にフルートといえば,現在の横のフルートを意味するようになったのてある。

リコーダーと同時代の楽器

(リコーダー)(ツィンク)(ヴィオール)(ハープ)(オーボエ)

リコーダーの一族はまれにみる大家族であり,現在使用されている種類は6種類である。

この他に,最高音部の笛として,クライン・リコーダー〔inハ〕,最低音部の笛として,コントラバス・リコーダー〔inへ〕がある。これらのリコーダーは大編成の合奏に使用されている。なお,下に示すリコーダー群はルネサンス時代に使用されたものである。

 

Gar Klein Blockflotlein in二

Klein Flotlein inト

Discantflote in二

Discantflote inハ

Altflote inト

Tenorflote inハ

Basset Flote inへ

Bassflote in変ロ

Gross Bassflote inへ

 

これら大小のリコーダーは,同時に組み合わせることなしに適当に数を限って組み合わせ,演奏していたのである。

これらリコーダーは,現在使用されているソプラノ・リコーダーとアルト・リコーダーである。同一の楽器でありながら,サイズが少々違う。これは,モダン・ピッチ,バロック・ピッチのちがいがあるからである。バロック・ピッチはモダン・ビッチより約半音低く調律されており,当時の音響を再現しようとする場合,ほかの弦楽器,チェンバロなどの楽器群も半音低く調律して演奏する。

なお,現在使用しているソブラノ〜バスという言葉は,元来声楽用語であった。イギリスはソプラノをディスカント,アルトをトレブルと呼んでいる。

 バロック時代においては,独奏用のリコーダ一のサイズ〔種類〕としては,アルトが最も多く使用されていた。理由として,前述のTreble〔最高音域〕の名が示すとおりである。音城の点からみても,音響学的な立場から考えても,アルトの響きが最も良いのである。次に独奏用に使われたサイズは,ソプラノであった。そして,それ以外のサイズは,もっぱら合奏用の楽器として使用されていたのである。


戻る