映画「ブラス!」紹介

生きる喜び

へこたれない労働者魂

各地で話題を呼んでいる映画「ブラス!」について紹介します。
是非一度ご覧ください。音楽に携わる者、今を精一杯生きる者にとって
きっと多くのメッセージを与えてくれることでしょう。

'98 6/26

全国一斉、待望のビデオリリース開始!

 

マークハ一マン監督や主演のビート・ポスルスウェイトは、サッチヤー政権に抗して長期にわたるストライキでたたかった炭鉱労働者を支持しつづけたという。その連帯の熱い思いかこの映画にこめられている。1996年、イギリス映画・107分・カラー。

暗闇からキャップランプが近づき、炭塵に汚れた労働者の顔が浮かぷ。その削岩機の音と重なり、やがて圧倒していく力強いプラスバンドの演奏。1992年、イングランド北部の炭鉱町グリムリー。ここも炭鉱閉鎖の波が押し寄せ、閉山反対闘争に寒空のもと、労働者の妻たぢもテントを張ってがんばっている。この町には伝統あるプラスバンド「グリムリー・コリアリー・バンド」があり、きようも仕事を終えた炭鉱労働者がそれそれ楽器を抱え、練習場へ急ぐ。リーダーのダニ−(ピート・ポスルスウエイト)は全情熱をそそいで指揮棒をふる。沈んだ町にふたたぴ希望と活気を呼びもどすべくプラスバンドの全英選手権に出場し、優勝をかち得たい。しかし失業の恐怖におののく仲間たちはダニ−のように打ち込めない。レッスンには不協和音が響き始めていた。そんなとき、バンド創設者の孫娘グロリア(タラ,フィッツ・ジェラルド)がこの町に戻ってきて入団する。このとき彼女がメンバ−と共演する「アランフェス協奏曲」がすばらしい。がぜん、みんながやる気を出ず。とくに幼なしみのアンディ(ユアン,マクレガー)の目が揮く。しかし全英選手権の壁は厚く、資金獲得のためのコンテストにはつぎつぎに敗れ、さらにグロリアが閉山を策す会社側の職員てあることが知れ、またまた暗雲立ぢ込める…石炭はもう古いとし、エネルギー政策転換をはかる政府と独占が一体となった炭鉱つぷし。会社側は、退職金に割増しをつけることで労働組合を分断させようとする。一方、労働者は「石炭は豊冨だ。たたかって生活と権利を守る」と閉山反対が圧倒的だった。ダニーの息子フィル(スティーブン・トンプキンソン)は家庭が崩壊寸前で悩んでいた。借金で家財道具まで差し押さえられるが、もとはといえば、十年前の闘争で逮浦、投獄されたときの負債が尾をびいていた。他のメンバ−も生活は危機にひんし、バントを維持するカンパさえこと欠くほど。その生活苦に会社側の切り崩しが功を奏し、組合は敗北。仲間たちは悔しさにふるえる。ダニーは、炭塵を吸った肺の病気が悪化して倒れる。メンバーはバンドの解散を決意し、病院の庭からダニーに聴かせるために最後の演奏をする。キャップランプで楽譜を照らし、「ダニー・ポーイ」を。涙をこらえきれない名シーンだ。さまざまな曲折をへて、失意のどん底から立ち直ったフィル。仲間のきすなに結ばれたアンディとグロリアたちは、誇りをかけて決勝コンクールへ。そして優勝したあとのダニ−の名演説。ラストのまるで労働者の底力をしめすような「威風堂々」の行進曲に、2度泣いた。

 

淀川長治 評

勇ましいプラスパンドをイングランド北部ヨークシャーの炭鉱夫のブラスチームが、ロントンのロイヤル・アルバートホールで披露するまでの苦闘物語。見るからに泥だらけの炭鉱夫たちの、この顔がイギリス男子の香りを放ち、貧しくて食うにも困るのにブラスバンド演奏に命をかける。ところが炭鉱が不況で閉鎖となり、ある者はピエロ姿で子ども相手にマジツクを見せて金をかせぐ。それもバント演奏の資金稼ぎだ。この快画、イギリス男たちの顔がすぱらしい。汚くて、男らしく貧乏くさい。その顔がいい。ところがこの町育ちの娘が、ひとかどのピジネスウーマンになって、祖父から受け継いだ我が家の誇りのラッパを吹くため、この男たち一行のなかに加わる。その一同の音楽訓練の苦心と男女の人間ドラマがあいまって物語を見せていく。

心なしかイギリスの感傷が日本と似ていて、この映画、木下恵介か山田洋二の作品に似て、日本の感覚とイギリスの感覚がこんなにも似ていることでとても二つの国のセンス、その勉強にもなる。

全国紙1998年2月

公開中のイギリス映画「プラス」が人気を呼んでいる。炭鉱労働者が主人公でテーマは失業。深刻な問題にもかかわらず、イギリスらしいユーモアを交えて拙いているところが一昧違う。こうしたアート系の映画にはあまり縁のなかった中年男性の姿が目立つのも、不況とリストラ、金融不安といった日本の経済情勢が影響しているようだ。

「ブラス!」(マーク・ハーマン監督)の舞台ねイングランド北部の炭鉱町。1992年、政府が大量の炭鉱閉山計画を発表する。閉鎖の危機におびえながら、労働者たちでつくるブラスバンドが全英選手権で優勝する物語で、実際にあった話をもとにしている。生活不安で練習に身が入らない団員をリーダーのダニーが「音楽がすべて」としりをたたく。地区大会で優勝して選手権大会への出場が決まるが、組合が会社側の提案を受け入れ、閉山が決まる。ダニーは病気で倒れ、別の団員は借金苦で妻子が家出したため自殺未遂。優勝しても失業という現実は変わらない…、炭鉱の閉山で家族、地域社会が崩れていく様子がひし

ひしと伝わってくる。日本でもかつて見られた光景だ。関西では、大阪・キタのシネマアルゴ梅田(客席九十席)が去年十二月二十日から一日五回上映、一月下旬から六回に増やした。土、日曜は毎回満席で、立ち見も出るほど。平日も客席の三分の二は埋まっている。今月六日までの七週間の上映予定を、急きよ二十八日からさらに二週間上映することにした。アート系映画は大阪では普通、二週間しか上映しないので、異例中の異例た。配給会社のシネカノンは「最初は七週間も続くのかと思っていた。口コミで客が客を呼んでいるらしい。若い人からお年寄りまでまんべんなく入っている。中でも中年男性が目立つ」と驚いている。映画評論家の白井佳夫氏は「ハリウッドに押されていたイギリス映画が面白くなった。庶民の生活に密着したドラマをドキュメント風に描くのが伝統だ。現突は厳しいが、絶望的にはならず、ユーモアをもち、しぷとく生きる人々を描いている。『イギリスも大変らしいが、がんばっているな。なら、オレたちも』と日本人ぱかりでなく、世界の人々に希望を与えているのではないか」と話している。

BACK