初夏の比良-1/4

 筆者にとって比良山系の山姿には格別の思いがある。筆者が小学5年の頃だったか、父母と兄妹5人の最初で最後のトレッキングに出かけたのが比良山系の山懐であった。この親しみ深い地を再訪したいと願いながら過ぎてきた40年の歳月。誰にでも登れるファミリーコースという印象は全く持っていない。

 なぜなら40年前のその夜、八雲が原と金糞峠の途中にある山小屋で一夜を過ごした経験が脳裏を離れないからである。夏休みに出かけたのはいいが、折りからの台風で夕刻から次第に風と雨が激しさを増し、小屋の前を流れる沢は大豪雨の怒涛と化していった。真っ暗な谷をゴウゴウと風が唸りながら通り過ぎ、丸木とトタンが主体の小屋は次々に破損箇所が増えていくことが分かる程にバタバタと音を荒立てていった。真夜中になって思い余った父が助けを求めに下山すると言い出した。父は比良山系を熟知した山岳部出身の経験があった。それにしても残される4人の思いは計り知れず不安のどん底であったことは今でも忘れることができない。

 母の説得で下山を断念した父と明け方まで怯えながら寝られぬ夜を過ごした家族は台風の過ぎ去った朝を迎えることが出来た。恐るおそる小屋の周囲を見てみると前夜と全く様相を異にしていた。木々の枝は無残に折れ、沢の両岸は抉り取られ、全く地形が変わってしまった。山の恐ろしさは十分すぎる程に身にしみた体験を得たのだった。天候の急変や体調の管理など、装備に至っても気遣わなければならない点は多い。

 それでも人は自然との共存を求めて懐を借りるのだろうか。そんな本能に逆らわず、筆者は40年前の足跡を辿ることにしたのだ。山の天気は午前がベスト、もう少し早く入山したかったのだが所用を済ませた11時にイン谷口到着。40年前に運行されていたリフトも本年3月31日をもって営業を終了・閉鎖され、足で登るしか方法がなくなったのだ。そんなことで気落ちする筈もなく清流の流れと新緑に囲まれて、いざ行かん。

イン谷口11:10→大山口11:25→金糞峠12:30→八雲が原12:50→武奈ヶ岳14:05→ワサビ峠14:25→中峠15:05→金糞峠15:45→(隠れ滝)→大山口16:25→イン谷口16:40 合計5時間30分


イン谷口の駐車場にて


清流と新緑が出迎えてくれた


青ガレに圧倒される


金糞峠までの辛さは筆舌に尽きぬ思い


ようやく金糞峠


金糞峠から近江舞子を見下ろす

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